【ネタバレ注意】ガラスの仮面第31巻その⑥【つかんだ・・・!】

      2021/06/26

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そのころ東京、雨月会館。

「山へ出て行くと出たっきりもう三日ですよ!
 あれからなんの連絡もないんです!
 マヤちゃんの身に何かあったに違いないですよ!」

激しく食ってかかるのは牧師役の工事現場のおっさん。
しかし黒沼先生は黙して語らず。

「アパートにも帰ってないって同居人の麗さんも心配してました。」
「黒沼先生!みんなでマヤちゃんを捜しに行きましょう!」
「警察に連絡した方がいいんじゃないですか?」

口々にマヤを心配する共演者たち。

「いかーん
 あの子はきっと帰ってくる・・・!
 今はまだ演技のことで行き詰まっているのかもしれん。
 役者の心配をするのは俺の役目だ。
 みんなは余計なことを考えなくていいから稽古をしろ・・・!」

命よりも演技を優先する黒沼先生。
このあたりがマヤと波長が合う理由かもしれない。
しかし主役不在の稽古にも限りがあろう。

「もし明日になっても帰ってこなかったら
 僕一人でも山へ捜しに行きます・・・
 たとえ黒沼先生が止めても僕は行きます・・・!」

「桜小路・・・」

桜小路君の悲壮な決意を聞いた一同。
共演者としての感情だけではないことを
鋭敏な黒沼先生は悟っているのかもしれない。

 

その頃山では。
桜小路君が悲壮な決意を固めているとも知らず
木の実草の実をちぎっては食べるマヤ。
演技のことで行き詰まっている、というよりは腹が減っている。
崖から滲み出る湧き水を飲み、
そして登山前に購入したキャラメルが最後の一粒。

「これが最後のキャラメル・・・
 山を降りなきゃ・・・」

さすがの食糧難に、下山を決意。

しかしマヤの頭は芝居のことでいっぱいだ。

「ジェーンの表情・・・
 姉が死んだ時のジェーンの表情・・・
 悲しみの表現・・・野生の表情・・・」

マヤの悲鳴と崩落の音。
足を滑らせ崖から滑落。
そして無音。

「生きていた・・・お腹が空いた・・・」

静寂の中、生を確認すると眠りにつく。
しばらくして水音で目を覚ます。

湧き出る泉の音であった。
誘われるように泉に近づき水を飲むマヤ。

「うっ・・・」

水面に映る自身の表情に気づく。

「ジェーン・・・
 何もない表情・・・これだ・・・!
 これがそうなんだ・・・!
 スチュワートに教育される以前のジェーン・・・!
 姉が死んだ時の表情・・・!
 つかんだ・・・!狼少女ジェーンの表情・・・!」

というわけで会得。

「できる・・・!あたしはできる・・・!
 ジェーンができる・・・!あたしはできる・・・!」

松岡修造のようになって夜の山を降りて行くマヤ。
そして空が白み始める頃道路にたどり着き、
通りかかったトラックを止めたのだった。

 

翌朝、雨月会館

「えー!まだなんの連絡もないんですって!?」

口々に心配する共演者たち。

「行きましょう先生・・・捜しに山へ行きますよ!」
「あたしも・・・!」
「警察に捜索願出したほうがいいかも・・・」
「きっと遭難したんだぜ、あの子ドジだから・・・!」
「もしかしてもう死んでるかも・・・!」

最後のやつは悪意が感じられる。
半端ないセンス&実力を持つ主役だが
勝手な行動&特別扱いに業を煮やしているのか。

「静かにしろー!」

机を叩いて叫ぶ黒沼先生。

「北島は無事だ・・・!
 きっと何か連絡をとりにくいような場所にいるだけだ!
 あいつは俺と約束したんだ。
 体には気をつけるとな。」

約束しながら、滑落して死にかけていたことなど知らない。

「行かせてください黒沼先生
 僕を山へ・・・
 彼女は僕の・・・大事な相手役ですから・・・」

桜小路くんが悲痛な心中をあらわにした瞬間。
開いた劇場の扉

片足だけの靴と泥だらけの靴下。
傷だらけの脚、破れた衣服。
マヤが帰って来た。

「遅くなりました。今戻りました。」

ざわつくメンバーを制する黒沼先生。

「それで、ジェーンは出来たのか?」

「はい・・・!」

「ん・・・!
 よし入れ稽古だ。その後で2時間程説教だ。
 わかってるな。」

嬉しそうな黒沼先生。

「おかえりジェーン」

マヤを迎える桜小路くん
満面の笑みをこぼすマヤに不覚にも心乱される。

「ただいまあ・・・!」

 

ちゅうわけで今回。

簡単にジェーンの表情を会得してしまったマヤ。
いや、簡単に、とは言わない。

荒天の山中で三泊四日野宿し、
空腹で苦しみ、滑落して死にかけて掴んだ役の魂。

これまでの芝居へのアプローチは比にならない、
まさに命掛けである。

しかし端的に言えば

「山で死にかけたら芝居が上手くなった」

わけであり、極めて単純な理屈である。

しかし、この時期のマヤ、
逆境であるが、無名ではなく、ノーギャラの役者ではあるまい。
にも関わらず、主役とはいえ、稽古を無断欠席、
数日行方不明になっていたわけである。

生死の心配までさせた挙句

「ただいまあ・・・!」

で復帰。それでええんかい。

かつてのマヤは、卓越したセンスとイかれた言動で
実力を認められながらも、陰口を叩かれたり、
時には理不尽な嫌がらせに遭ったりしてきたが

今のマヤは有名人。
もはや苦言を呈する人もいない。
黒沼先生も言葉とは裏腹に嬉しそうである。

もはややりたい放題。
そのあたり、師匠に似ている。

つづく

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第31巻・紫の影(4)