【ネタバレ注意】ガラスの仮面第31巻その⑦【さあこい!ジェーン!】

      2021/07/21

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大都劇場。
アカデミー演劇祭参加作品「イサドラ!」
主演:円城寺まどか

華やかに初日を迎えていた。
賑わうロビー、華やかに着飾った観客
各界著名人からの大輪の花束が並んでいる。

芸術祭大賞候補の初日だけに、関係者と報道陣であふれている。

芸術祭主催者のフジミ食品の会長に社長
全日本演劇協会からは理事長に会長、主だった幹部たち
芸術祭実行委員会のメンバーはほとんど全員。
芸術祭審査員長にして、文化勲章を受けた名優の宇田川千吉
毎朝新聞、日東出版の取締役など、芸術祭の審査員も。
星歌劇団の大スターだった円城寺まどかだけに、
大物関係者が勢揃いだ。

つづいて姫川歌子・亜弓親子の登場。
そして大都芸能の速水真澄は、噂の鷹宮天皇の孫娘・紫織様と登場。
公の場に同伴したことで婚約間近も囁かれる。
つづいて現れたのは小野寺理事。
さっそく速水真澄に駆け寄ると、紫織様の美しさを褒め称える。
このあたり、彼が演劇界で生き残っている理由である。

続いて黒沼龍三、北島マヤ、桜小路優が登場。
円城寺まどかのために事務所を追い出され、
芸術祭参加の審査で落とされたと噂される。

「よくきてくれたな。チビちゃん。」

「速水さん・・・招待いただきましたから。」

「そうだったな。最後まで楽しんでいってくれたまえ。
 芝居が終わったあと、初日を祝う会がロビーで催される予定だ。
 君達もぜひ残ってくれたまえ。いいなきっとだ!」

去って行く速水真澄。

開幕。派手な照明と音楽で登場した円城寺まどか。

「出てきただけでこの拍手・・・」

「これが星歌劇団のスターの実力か・・・!」

マヤも桜小路くんも圧倒される。
大道具だけで五千万と言われる装置、
通常の芝居の三倍の照明。シャアか。

星歌劇団を退団したばかりの大スター
円城寺まどかのミュージカル「イサドラ!」は
その新しい門出にふさわしい華やかな舞台だった。
大喝采の中終幕。

「終わったか・・・」

複雑な表情の速水真澄

「素晴らしい舞台でしたわとても感動的で・・・」

いつになくテンション上がってる風の紫織様

そして場内では遺恨も忘れて
マヤが客席で腑抜けのようになっていた。
いつもの観劇後の抜け殻である。

「これからが君の本当の舞台だチビちゃん
 1%の可能性をつかめ・・・!
 自分自身の実力でな・・・!」

「マヤちゃん舞台はもう終わったよマヤちゃん」

「どうでしたか今日の舞台は?」

「速水さん・・・」

「ああ楽しかったよ。歌も踊りも申し分なしだ」

「それはよかった。君はどうだったチビちゃん?」

「すてきだったわ。
 舞台の間中ずっとイサドラになった気がして。」

「さ、そろそろ一般の客も帰ったようだ。
 すぐパーティーの準備もできるでしょう。
 みなさんもどうぞ。」

 

そして華やかに始まった初日を祝う会。
円城寺まどかはイサドラの紛争のまま登場。
関係者は口々に円城寺まどかの「イサドラ!」を褒め称える。

「よくきてくださったわ。黒沼先生。桜小路くん、マヤさん。
 いかがでした?私のイサドラは。」

「楽しい舞台だったよ円城寺さん。
 歌も踊りも抜群だった。
 あれでイサドラの演技に深みがあればもっと良くなったろう。」

いきなりの口撃にざわつく会場。
青ざめる円城寺さんと演出の藤本夜彦先生。

「それは・・・わたくしの演技が未熟だとおっしゃるの・・・?」

「すまんなせっかくの初日に。
 おれは嘘がつけないんだ。」

このあたり、小野寺先生とは真逆である。

「ではその二人にお聞きしたいわ。
 あなたたちの感想はどう?」

「僕は・・・歌と踊りのすごさに圧倒されました。」

「あたしも・・・!
 イサドラの踊りにかける情熱がとても素敵でした。
 セリフの一つ一つがじんときちゃって・・・」

「ほう例えばどんなセリフかな?」

すかさず合いの手を入れる速水真澄。

「ほら!あそこ、一幕3場の酒場の片隅で喋る画面。」

頼まれてもないのに、イサドラのセリフ、しかもかなりの長ゼリフを朗々と語るマヤ。

「ここのところのセリフがすごく好きです。」

まあいつものマヤの変態ぶりなのだが、円城寺さん度肝抜かれる。

「あなた・・・今のセリフ全部覚えているの?」

「はい全部・・・!」

「セリフを全部だと?そんなバカな・・・」

「他にはどんな場面が気に入ったのかな?」

まだ余裕がある藤本先生を制し、マヤにパスを続ける速水真澄。

「7場のイサドラが初めてダンスを踊る場面、
 それから子供を亡くして気が狂いかけるところ
 狂いながら踊る場面にすごく感動しちゃった!
 でも終幕間近の場面・・・あそこあたし一番じんとしちゃいました。」

もはやただのイサドラファンのマヤ。

「ほう・・・!どんなセリフだったのかな。
 ちょっと演ってみてくれないか?」

「え?」

マヤに試演を依頼する速水真澄に違和感を覚えた円城寺さん。

「どうした?セリフを全部覚えているというのは嘘か?」

「いえ・・・」

「なら演ってみたまえ。」

ざわつくパーティー会場、
紫織さまも、速水真澄の執拗なマヤいじりに違和感を覚えている。
姫川亜弓も見ている。

「イサドラの最後のセリフ・・・イサドラの・・・」

「うっ・・・」

まだ一言も発していないが、マヤがイサドラになったのを見た円城寺さんと藤本先生。
さすがプロである。

そして長ゼリフを今度は芝居付きで披露するマヤ。
マヤの芝居にハッと気づかされる円城寺さん。

「理事長・・・・」
「う・・・む・・・これは・・・」

場内の関係者がざわつく。

「どうも・・・以上でした」

「君の最後の演技は円城寺くんとは違っていたがなぜかね?」

芝居の主旨を確認する全日本演劇協会理事長。

「よくわかりませんただ・・・
 ああ演りたくて・・・あたしがイサドラだったらって・・・」

「最後のセリフ・・・円城寺さんとあの子じゃ全く解釈が違う。
 円城寺さんの演技じゃ人生を諦めた投げやりな感じだったが
 この子のはイサドラが本能に目覚めた目をしている・・・
 死を思うほどの心境の中で最後はまた踊りのことを考えるといった
 舞踏家の性みたいなものを感じる・・・これが即興でやった芝居とは・・・」

即興でやった芝居に、その場でこれだけの批評を加える理事長も只者ではない。

「おいなんだかこっちの方が良かったと思わないか?」
「しっ!円城寺さんに聞こえるぞ!」
「セリフは一言も間違ってないぜさっきの舞台セリフを全部覚えてるってのは本当だったんだ」
「恐ろしい〜」

「さすがは元アカデミー芸術祭助演女優賞を受賞しただけのことはあるな。
 なかなか良かったよ北島マヤくん。」

「北島マヤ?あの紅天女を目指しているという?」
「そういえば奇跡の人のヘレンケラー役で助演女優賞を取っているんだ」
「黒沼龍三氏の芝居に出演するって?」
「え?狼少女役?」

会場の主役がマヤになりつつある。フラッシュもたかれ始めた。

「いかがです円城寺さん。
 イサドラの演技までやってくれたあの少女に
 狼の演技も余興で見せてもらいたいとは思いませんか?」

「速水さん・・・!」

「ええぜひやっていただきたいわ!
 あなたなら素晴らしい狼少女をやれるでしょうから・・・!」

ざわめく会場。そして許可する円城寺さん。
あんたこの前稽古場で、狼の芝居観てやばい思ったやろ。

「さあどうした?やってみろチビちゃん。
 全日本演劇協会賞をねらっているんだろう。
 今日ここには芸術祭の方々も多数おいでだ。
 君の演技をみていただくいいチャンスだそうだろう?」
 この床は四つ這いでも歩きやすいぞ。
 さあ演りたまえ狼少女ジェーン。」

「失礼します!行こうマヤちゃん!」

「逃げるのか!
 人の芝居は演れても自分の芝居は見せられないというのか?
 ここで逃げたら君の芝居など誰も見に行かないぞ。
 それとも自分の演技に自信がないのか?
 野良犬ジェーン」

普段見せない速水真澄の陰険ドSっぷりに青ざめる紫織さま。
マヤは怒りに震え手を床につく。

「やめろマヤちゃんそんなことする必要はないよ!」
「君は引っ込んでろ。この子を相手しているのは俺だ!」

桜小路くんを突き飛ばす。ついに暴力まで。
止めようとする桜小路くんを止める黒沼先生

「ほう、狼の格好がよく似合う
 では君に餌をあげるとしよう。」

会場の客が手にしたチキンを取ると床に放り投げる。

「ほら。君にはイサドラより狼少女がお似合いだよ
 さあ拾ってこい狼少女。餌はあっちだよ。
 それとも味のついたチキンは苦手かな?」

アホみたいに嘲笑する円城寺さんとその取り巻き。

「この男・・・!
 みんなの前であたしを笑い者にする気なんだ」 

怒りに震え、前足が床に食い込む。
そして先日山で会得した野生の表情。
その瞬間会場に緊張感が走った。

「すごい・・・なんて表情だ・・・」
「こ・・これ演技なの・・・?」

「やっと面白くなってきたようだな。
 こい!ジェーン!」

上着を脱いで手にするとマヤと対峙する速水真澄。

「離してください先生!マヤちゃんがこんな目にあってていいんですか?」
「待てといってるんだ!」

「マヤさん・・・」
一部始終を見守る姫川亜弓はいたって冷静。

「真澄さま・・・あなたがこんな・・・!」
紫織さまドン引き。

大都芸能速水社長と狼少女の対決。
イサドラ初日舞台後のハプニング。
マスコミがヒートアップする。

「題名はなんだ?忘れられた荒野?」
「黒沼龍三の芝居・・・どこで上演するんだ?」
「なに?雨月会館?上演日はいつなんだ?」

「速水真澄・・・あいつ・・・
 あいつもしかしたら・・・」

何かを察知した黒沼先生。

「な、なんなのこれはいったい?
 今日はイサドラの初日なのよ。
 みんな一体どうしたっていうの?」

主役の座を奪われた円城寺さん、時すでに遅し。

「さあこい!ジェーン!」

 

ちゅうわけで今回。
言わずと知れた有名なシーンである。

マヤの芝居に注目を集めるため
芸術祭や演劇界の重鎮関係者が集まるイサドラ初日のパーティー会場にて
巧みにマヤを誘導し、憎まれ役となってまでマヤの狼少女の芝居を披露させ
芸術祭大賞受賞への可能性を広げたのである。
しかも、マヤに感想を求めた円城寺まどかさんに、
セリフを覚えてる雑談から、マヤの芝居を披露させ、
この場で狼少女を演じる許可を取るという念の入り様。
この辺り仕事の鬼である。

速水真澄とマヤの関係性が良ければ
これが仕組まれたいわばプロレスであることを伝えれば済むのだが
そうもいかず。
茶番であっては、マヤの本気も引き出せないであろう。

しかし悲惨なのは円城寺まどかさん。
興行的には大成功であろうが
黒沼先生には芝居を酷評され
マヤには遠回しに自身の演技を否定され
本日の主役の座を奪われ
さらには敵の芝居の宣伝に一役買ってしまった。
またこうして、マヤの芸の肥やしが増えていったのである。

第32巻につづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第31巻・紫の影(4)