【ネタバレ注意】ガラスの仮面第32巻その②【結果を考えないで動く方ではない】

      2021/08/17

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「大都劇場イサドラ!初日のハプニング、狼少女暴れる!!」
「黒沼龍三氏演出の忘れられた荒野、主役の少女北島マヤ狼の演技に関係者は唖然・・・」
「イサドラ!関係者の話題をさらった初日舞台後の芝居」
「黒沼龍三氏演出忘れられた荒野、狼少女の北島マヤ」

マヤがパーティー会場で狼少女を演じて注目を浴びた記事が続々公開される。
書店に殺到する群衆。どういう世界なのだろう?

そして雨月会館では電話が鳴り止まない。

「黒沼先生、舞台の問い合わせが殺到してます!」
「初日のチケットはもう売り切れですよ!他の日も前売りの予約がいっぱい来ています!」
「それに雑誌の取材の申し込みが山ほど・・・」

電話を取っているスタッフと報告するスタッフ
彼らは黒沼先生を信じてついて来たあの二人であろうか。
演出助手かと思いきや、制作部門として電話番も行なっているようである。

「黒沼先生、アカデミー芸術祭実行委員会からお電話です!」
「はい黒沼です」

「アカデミー芸術祭の実行委員会から・・・?」

 

その夜。
線路沿いのおでん屋台にいる黒沼先生。

「オヤジ、もう一杯くれ」
「へい誰かとお待ち合わせで?」

そこにやって来た黒塗りの高級車。

「いよっ!来たな。
 すまんなわざわざ呼び出したりして。」

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颯爽と現れた速水真澄。

「ま!飲んでくれ。今日は俺のおごりだ。」
「では遠慮なく。」

「あんたのことだからもうとっくに承知かも知れんが
 今日アカデミー芸術祭実行委員会から電話があった」

「ほう、なんと」

「忘れられた荒野の舞台を審査員たちが見にくるというんだ。
 そのための座席を用意してくれと言って来た。
 参加を認められてもいないのにだ。
 それに話題になったおかげでチケットの前売りが飛ぶように売れている。」

「それはそれは」

「ごまかさんでくれ。
 あんたこうなることを予想して北島マヤにケンカをふっかけたな。」

「さあどうですか。僕とあの子は宿敵ですから。」

一方的に嫌われているので、「宿敵」とはちょっと違う。

「それにこうなったのは僕のせいじゃありませんよ。あの子の力ですよ。
 もしあの時あの子が下手な演技をしていたら
 誰もあなた方の芝居に興味は持たなかったでしょう。
 すべてあの子の実力ですよ。
 こうなったら審査員たちに有無を言わせない舞台を見せて
 全日本演劇協会賞を狙うんですね。」

「あんた・・・何を企んでいるんだ?」

すべてを見通した上で肩入れする速水真澄に、不信を抱いた黒沼先生。

「なにも・・・ただ多くの才能を埋もれさせたくないと思っているだけです。」

それも一つの理由だが、理由はそれだけではない。

「桜小路優は劇団オンディーヌの所属です。
 まだ若いが才能はある。
 賞さえ取れば彼はスターになれる。
 将来は大都芸能の看板になれる男だ。
 あなたも北島マヤも才能ある人間はすべて僕の宝です。」

「商品価値があるってわけか」

「そうです。」

「傑作だな。あんたが俺に商品価値を見出すとは・・・」

「あなたのことは全部調べさせていただきました。」

  • 演劇をはじめたきっかけ
  • 学生時代の演劇活動
  • 一番最初に演出を手がけた舞台は何か
  • 評判はどうだったか?
  • その観客数
  • その他今まで手がけた舞台のすべてのデータを持っています。
  • 上演作品、上演日数と回数、再演の有無
  • そのすべての観客数
  • 舞台の予算、制作費、宣伝費、役者の出演料
  • 興行収益またその赤字額
  • 手がけた舞台の演出記録
  • 新聞雑誌に載った劇評のすべて
  • 観客のアンケート
  • 一般観客と役者と劇評家の感想の差

「すべてあります。
 もしあなたがお忘れなら
 何年何月何日の芝居はどの劇場で開演は何時何分
 予定より何分遅れて始まったか
 観客は何人だったかということまでお教えできますよ。黒沼さん。」

「あ・・あんた・・・あんた一体なんだってんだ・・・
 なんだって俺のことをそこまで・・・」

そらこんだけ知られていたら、ちょっとキモいに決まってる。

「答えは今度のあなたの舞台を見てからにしましょう。」

「今度の舞台を・・・」

「ときに狼少女はどうしていますか?」

「狼少女?ああマヤならはりきっとるよ。
 あんたに噛み付いてからは特に野性味が出てな。
 うんなかなかいいジェーンだ。」

「それはよかった。ころんでもただでは起きない子だ。
 さすがに紅天女候補だ。」

「紅天女か・・・
 ま、速水さんあんたがどうしても手がけたいって気持ちはわかるがね。
 もし紅天女をよみがえらせるものがいたら
 演劇史になお残すだろう。」

「そのとおりですよ。黒沼さん」

ここで運転手に呼ばれる速水真澄

「ではぼくはこれで。今日は楽しかったですよ。
 黒沼さん、覚えておいてください。
 紅天女の候補は役者ばかりではないということをね。」

「え?」

「忘れられた荒野の舞台のデータがどう出るか
 楽しみにしていますよ。」

走り去っていく高級車。

「なんだと?
 役者だけで芝居ができるわけじゃなし
 何をあたりまえのことを・・・
 演出・・・!?」

酔いが覚める黒沼先生。

「紅天女の演出家候補・・・?まさかこの俺が・・・
 だからあれほどデータを・・・
 演劇界幻の名作紅天女の演出をこの俺が・・・?
 あの紅天女の・・・
 買ってくれたもんだな速水の若社長も・・・」

まだ内定したわけでもない。
線路沿いを歩いて帰る黒沼先生。

「でもありがとうよ。今の俺にそこまで言ってくれるのはあんたくらいのもんだ。
 あんたの期待には応えたいぜ。
 アカデミー芸術祭・・・舞台はこれからだ・・・」

突然民家の生垣の葉っぱを引きちぎる。

「やってみるか・・・!」

軽犯罪とともに芝居への情熱を再燃させる。

 

「アカデミー芸術祭の審査員の方々が
 あたしたちの芝居をみにやってくる・・・?
 イサドラの初日のロビーで速水さんとケンカしたことが
 こんなことになるなんて・・・これは偶然なのかしら・・・?」

もう全部答えを言ってるマヤ。
水城さんと待ち合わせ。

「これを速水さんに渡してください。水城さん。
 初日の舞台の招待状です。前に約束していましたから。」

「どうして本人に直接渡さないの?」

「あたし速水さんに会いたくありませんから・・・!
 顔も見たくないんです。」

「このあいだのことをまだ怒っているの?」

「もちろんです・・・!あたし一生忘れません。」

「でもその結果はどうだった?マヤちゃん。」

「え?」

「アカデミー芸術祭の審査員たちが舞台を見にいくのですって?
 よかったわねおめでとう。これで参加を認められる可能性もあるわけね。
 審査員達が舞台を見にいくというのはそういうことよ。」

「え、ええ・・・」

「真澄さまは結果を考えないで動く方ではないわ。」

仕事に関してはな

「水城さん・・・!どう意味ですかそれはいったい・・・
 速水さんはこうなることがわかっていてあたしにあんなことを・・・
 なぜ?なぜですか?」

微笑む水城さん。

「わからなければ仕方ないわね。
 理由はじぶんでかんがえてごらんなさい。
 真実が見えてくるかも知れないわ。」

いちいちかっこええ水城さん、去っていく。

「真実が見えてくる・・・?
 わからないわどういうことなのかしら・・・?
 速水さん、あの冷血漢がなぜあたし達のためにそんなことを・・・?
 そんなバカな・・・!そんな・・・」

 

ちゅうわけで今回。
仕事がらみでは相変わらずのキレと冴えを見せる速水真澄。
あのめんどくさい黒沼先生が心を許すあたり只者ではない。

しかし改めて読んでみると
黒沼先生のデータをストーカーのように持っていることを知って、
うろたえる黒沼先生、
「マヤへの好意」の後だけに、
「俺のこと好きなの?」みたいな表情でわらけた。

ほんで敏腕秘書の水城さんを、チケット配達係に使うマヤ。
しかし水城さん相変わらずかっこいい。

しかし速水真澄が本当に「結果を考えないで動く方ではない」なら
この一連の長い物語もここまで複雑になってはいないわけなのだが。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第32巻・紫の影(5)