【ネタバレ注意】ガラスの仮面第33巻その① 【芝居の可能性に挑戦・・・】

      2021/10/02

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「月影先生・・・!
 なぜここに・・・?
 戻られたんだ・・・紅天女のふるさとから
 でもなぜ・・・!?」

「月影先生・・・!
 驚いたわ。いつ東京にお帰りになったのかしら・・・?」

「先生が見ている・・・!
 あたしをみている・・・!月影先生・・・!」

中央通路突き当たりで立ち見の月影先生
舞台上でその視線を気にしている主演女優と
客席で完全に後ろを向いているライバル。

そんな異常事態が起こっていることに観客は誰一人気づかない。

日本演劇協会理事長、藤美食品社長、アカデミー芸術祭選考委員
演劇界の重鎮達、ふてくされた小野寺先生、そしてそこになぜか混ざっている紫織様。

そしてもうひとり遅刻してきた奴がおる。

「桜小路君・・・昨日の初日は台風でこられなくてごめんなさい
 本当はここでこうして桜小路君のお芝居見るのつらいの。
 だって桜小路君はまだ北島マヤさんのことを・・・
 わかってるの舞のことは妹みたいにおもっているんだってこと・・・
 そうよね舞から頼んで付き合ってもらっているんだもの。
 二人で舞台に立ってる姿なんか見たくない・・・
 仲よさそうにお芝居やってるところなんかみたくない。」

桜小路君、その気もないのに舞ちゃんと付き合っているという鬼畜疑惑発生。
そしてそんな気持ちのすれ違いの答えあわせをするべく
遅れて劇場にやってきた舞ちゃん
そんな彼女の気持ちなど全く問題とせず芝居は進行する。

唯一の仲間、狼少女の姉を失ったジェーンの悲しみの芝居。
その芝居に眼が光る演劇協会理事長。
思わず声を上げる小野寺先生。
政治力ばかりがクローズアップされるが、
芝居を見る目は一応あるようである。

そして姫川亜弓、藤美社長、そして芝居素人の紫織様も
マヤ演じるジェーンの表情の空虚さに惹きつけられる。

「こ・・・この狼少女すごいですね理事長・・・」
「うむ・・・」
「君これは本当に人間が演っているのかね?」
「は・・・あ社長、そのはずですが・・・」

相変わらずこの世界の観客は場内での私語が多い。
藤美社長、アカデミー芸術祭主催者のくせに
素人じみた感想。

「なんて表情なのマヤ・・・!
 泣き叫ぶわけでもないのにジェーンの死ぬほどの悲しみが伝わってくる・・・
 野生の動物の悲しみ・・・
 無表情の表情・・・
 そんなものがあったの・・・?
 狼少女の嘆き・・・これがそうなの・・・!?」

それにひきかえ姫川亜弓、
芝居を知るもの、マヤを知るものとして見事な解説を入れてくれる。

人間を感じさせないマヤの芝居に注目する客席

「狼少女ジェーン
 すごいあの少女が役者だということさえ忘れてしまう・・・
 真澄様これがあなたが気になさっている少女ですのね・・・
 北島マヤ・・・こんな女優でしたの・・・」

速水真澄の心の奥底を確かめるべく来場した紫織様も
芝居に関しては素人ながら
マヤの人間離れした演技に圧倒され、
その役者としての力量を認める。

「桜小路君・・・マヤさん・・・すごい・・・
 まるで舞台の上で本気でたたかってるみたい・・
 それに桜小路君のことばかり気になってマヤさんの狼少女
 今までそんなに気にしてなかったけれどすごい・・・
 本物みたい・・・あんな桜小路君はじめて・・・
 これが忘れられた荒野の芝居なのね・・・」

一応演劇関係者のはずの舞ちゃん。
素人のような感想。
君は男を探しに劇団に来ているのだろうか。

そして佳境を迎える芝居。
雨の中酔っ払って朝まで歩き続けたスチュワート
肺炎にかかり死にかける。
スチュワートの看病をする一同から離れていたジェーン
無機質に立ち上がると地団駄を踏み泣き叫ぶ。

姫川亜弓、紫織様、理事長、舞ちゃん、月影先生、
そしてその他の客もジェーンの変化に度肝を抜かれる。

「気づかんか。
 これはジェーンの心が人間へと変化しつつあるのじゃ。
 姉狼が死んだ時のジェーンの悲しみよう・・・それは狼としてのものだった・・・
 無表情のままで外へ現れる感情はなにもなかった。
 だがこれは・・・愛するものをなくそうとしている少女の悲しみだ。
 ジェーンの心がしだいに人間へと近づいていっているのじゃ。
 ジェーンが人間になろうとしているのじゃ!」

理事長、見事な解説。
稽古序盤で黒沼先生から課された、狼の悲しみと人間の悲しみの違いもクリア。

「狼少女ジェーン・・・
 これは北島マヤほんとうにあなたなの・・・?
 どうしてあなたは役の人物とそこまで一体になれるの?
 計算でもなく技術でもなく舞台の上では心そのものが変化してしまう
 あなたが本物になれば周りの人間も本物にかわる・・・
 舞台が本物になる・・・・
 あなたが出てくるだけで舞台が生命をもったようになる
 目はいつの間にかあなたの姿に引き寄せられる・・・」

姫川亜弓の解説は切実さを増し、マヤの才能を認めざるを得ない形になる。

「気づかないのマヤ?あなたは本物の役者だわ・・・
 ああ・・・!今この舞台の上で狼少女を演っているのがあたしだったら・・・!
 あそこで演技をしているのが私だったら・・・!」

もう何度目になるかわからない姫川亜弓の例の感情。
舞台の上に立っているのが自分だったら
こんなにまで、本物になれるのか、という葛藤
あるいはマヤのように本物になれたのならどんなにいいか、という羨望。
わかるわかる。おっさんだって大谷翔平になりたい。

「マヤ・・・あなたの舞台を見るたびに
 わたしは自分が自信のない子供のように思えてくる・・・
 努力さえすれば手に入れられないものは何もないと思っていたのに・・・
 そうではないことを思い知らされる・・・!
 私はただの一度もあなたに勝ったと思ったことはないわ。
 ただの一度も・・・!
 わたしにとってそれがどんなに惨めなことかあなたにわかって・・・・?
 マヤ・・・!あなたさえ現れなければこんな思いをすることもなかったわ・・
 嫉妬してる・・・!わたしはマヤあなたに嫉妬している・・・
 あなたの才能に嫉妬している・・・!」

嫉妬しているって三回も言ってる。
もはや芝居の感想ではなく敗北宣言。
姫川亜弓が個人的に敗北を味わっている間に芝居は終了。
ご満悦の月影先生。
そして割れるような歓声と拍手が雨月会館に響き渡る。
主催者、理事長、審査員たちも拍手。

まだジェーンが抜けきらないマヤ、
共演者に促されて舞台に出ると大歓声で迎えられる。
素に戻ると相変わらずのポンコツぶり。

「すごい人気だ・・・マヤちゃん君は不思議な人だね・・・
 同じ役者でありながらほんとは僕はちょっぴり妬ましい・・・
 なのになぜかこの拍手を僕は素直に聞ける・・・
 他のみんなもきっと・・・」

他のみんなは大半素人だから何も考えていないと思う。

そして何と紫織お嬢様も、お付きの老女が驚くほどの笑顔で拍手。
小野寺先生は負け惜しみのように勢いよく席を立つ。
そして中央通路突き当たり。

「月影先生・・・!
 いない・・・!そんな・・・!」

姫川亜弓も月影先生の消滅に気づく。

 

終演後、楽屋には全日本演劇協会理事長と
芸術祭の関係者が黒沼先生に会いにきた。
しかしマヤは衣装を着替えるまでもなく劇場の外へ

「月影先生どこへ行かれたんです?どこへ?
 なぜあたしに黙って・・・!?」

慌ててぶつかったその人は姫川亜弓。

「どうしてここに?月影先生を見なかった?」

「追ってきたんだけどこの辺りで見失ったのよ。
 先生はいつ東京へ?」

「わからないの、何の連絡もなかったし」

「そう・・・一体何をしに戻ってこられたのかしら?」

「月影先生・・・」

衣装のまま路地で立ちすくむマヤ。
その姿を白目で見つめる姫川亜弓

「今日のあなたの狼少女・・・よかったわ」

「亜弓さん、どうもありがとう。
 亜弓さんにそう言ってもらえるとあたし・・・」

「本当よあの舞台に立っているのがわたしならどんなにいいかと思ったわ。」

亜弓の複雑な表情に異変を感じるマヤ。

「月影先生の居所がわかったら知らせてね。
 きっとよ。じゃあまた。」

車で去っていく亜弓を見送るマヤ。
そしてその姿を壁に隠れて見ている月影先生。
完全に異常者である。
若くて健康な少女二人の追走を巻くほどの脚力は健在らしい。

芝居を見た人々の様々な感想

「こんな少女でしたのね。演技に一途な・・・
 真澄さまあなたがきにかけていらしたのは・・・
 大都芸能の社長として興味がおありなのもわかるような気がしますわ・・・」

何か得心した紫織お嬢様。大間違いである。
興味があるのは「大都芸能の社長として」だけではない。

「舞ったら・・・舞ったらバカみたい
 桜小路君をマヤさんに取られるんじゃなかって心配ばかりしていて・・・
 二人ともあんなに真剣なのに・・・芝居にあんな真剣なのに・・・」

結論から言うと、桜小路君の心はマヤに奪われたが
マヤにはその気も自覚もない。そして君は芝居をやめたほうがいい。

 

月影先生を見失いしょんぼりとして楽屋に帰ったマヤ。

「みなさん!狼少女が戻りましたよ!」

すると大勢の重鎮が驚き交じりに整列しマヤを出迎える。

「は?な、なにこれいったい・・・?」

「君があの狼少女をやったひとかね?
 こうしてみるとまるっきり普通の少女だ
 あれが演技だとはな・・・」

「北島君、こちらは芸術祭主催者の藤美食品の藤美社長だ。
 君に会いたいとおっしゃってな。今までお待ちだったんだ。」

意外と敬語を使える黒沼先生の紹介にかしこまるマヤ。

藤美社長、芸術祭主催者という立場を忘れるほどに芝居に没頭、
あまりにもマヤの狼少女がすごかったので実物に会いたかったらしい。
特に姉狼が死ぬ場面や、スチュワートのスカーフの匂いを嗅いで人間に目覚めるシーンで感動したとのこと。

「早速この芝居の参加を再検討して見ることにするよ黒沼くん」

「ありがとうございます理事長。
 もしできれば5日後にもう一度見にきてもらえませんか?
 俺はこの芝居をこのままにする気は無いんです。
 芝居の可能性に挑戦してみたいんです。」

「芝居の可能性に挑戦・・・か?」

「ええ・・・!」

 

ちゅうわけで今回。
「忘れられた荒野」二日目にして実質初日は大成功。
多くの演劇界の重鎮や芸術祭関係者が観劇する中
マヤの芝居は前評判以上に観客を魅了したのであった。

そしてマヤの芝居を見届けると姿を消した月影先生、
来場した時は車で源造さんと一緒やったのに
街の壁の影に隠れているのは一人。
源造さんもまかれてしまったのだろうか。さすが紅天女。

そして姫川亜弓。
芝居の感想から毎度のごとく自身の敗北を悟り落胆嫉妬する。

恵まれた才能、環境、そしてそれらを凌駕するまでの努力で
乙部のりえを筆頭に多くの才能や逸材を絶望させ叩きのめした姫川亜弓であるが
その姫川亜弓が叩きのめされるマヤの才能、おそるべしである。

昨今ニュースで騒がれている「親ガチャ」なる言葉はあまり好きではないが
姫川亜弓は映画監督の父と大女優の母を持ち
美貌にも環境にも経済的にも、役者として生きていく上では恵まれていると言える。
そしてそれを上書きする努力を重ねている。
姫川亜弓を見ていると「親ガチャ」論争になぞらえると
やはり「親ガチャ」はありなのだろうか。

しかしその姫川亜弓を絶望させるほどの北島マヤ。
家庭的環境で言えば姫川亜弓と比較するまでもなく恵まれてはいない。
父親は早くになくなり、母親からはみそっかす扱いされ、芝居には否定的、
そしてその母親も非業の死を遂げる。
しかしマヤは先天的なものなのかどこかで育んだのか、
圧倒的な芝居の才能を持っている。これは親ガチャなのだろうか。
やはり親ガチャという考え方は、間違いではないが全てではないことを物語っている。

凡人 < 才能ある人 < 才能と環境だけの姫川亜弓 < 努力を重ねた姫川亜弓 < 北島マヤ

という図式か。
やっぱり天才はずるいわ。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第33巻・紫の影(6)