【ネタバレ注意】ガラスの仮面第33巻その③【黒沼龍三が芝居を変えた?】

      2021/10/26

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5日目の公演を終えた「忘れられた荒野」
終幕後のカーテンコールは大歓声と拍手に包まれている。

「本日はご来場いただきましてありがとうございます。」

舞台上で挨拶をするのはビクトール男爵役の竹本さん。
今回のメンバー中、マヤと桜小路君以外で唯一のプロ、
稽古でも黒沼先生の無茶振りとも言える
大喜利のような稽古も無難にこなす
縁の下の力持ちでありいぶし銀の男である。
今回もよどみなく、挨拶を続ける。

確かに本番後は腑抜けになっているマヤには挨拶は無理だし
この人選は正解のような気がする。

「さてわたくしどもの忘れられた荒野、上演5日目を迎えまして
 明日からもう一つの忘れられた荒野に挑戦することになりました。」

「もう一つの忘れられた荒野?」

ざわつく客席

「そして5日毎に違う芝居をお見せするつもりであります。
 演出家の黒沼龍三と我々役者一同が
 芝居の可能性に挑戦してみようというものでございます。
 同じ芝居がどのようにかわりますか。
 ぜひ皆様、あしたからの新しい忘れれられた荒野にご期待ください!」

口々に期待を、そして再来場を呟きながらさっていく観客たち。

そして雨月会館では。

「場内の椅子を全部取り払うんだ!一つ残らずだ!
 舞台奥上手と下手もっとブロックをつみあげろ!」

黒沼先生の指示のもと客席も含めた舞台装置の大改修。
先日紫のバラのひとによって、新改装された客席は
素人工事によって取り外されることに。

「芝居の可能性に挑戦・・・!」

不安げに見つめるマヤたち。

 

そして翌日。

「舞台の上も客席になっております!
 どうぞ上から順におつめください!」

様変わりした場内に案内される観客たち
客席の中央だったどころにスペースが用意され
ブロックが舞台への階段状に積み上げられている。
そこを取り巻くように椅子が並べられ
舞台上にはブロックが高く積まれ、そこも客席になっている。

「ほう・・・舞台を変えたか」

そこにやってきたのは全日本演劇協会理事長。

「黒沼さんは5日目ごとに違う芝居をやると宣言したそうですが
 いったいどんなものをやる気なんでしょう理事長?」

「もうひとつの忘れられた荒野か・・・
 ゆっくりと見せてもらうとしよう。」

開演前、舞台にスタンバイするマヤ

「セリフも筋もそのままで、もう一つの忘れられた荒野・・・」

開演。暗転した場内に狼の遠吠えがこだまする。
そして客席にピンスポットがあたると
ビクトール男爵が客席に座っての登場。
驚く観客。

するとスチュワートもピンスポットで登場。
昨日までは舞台の上で行われていた芝居が
客席の中で行われている。

そしてジェーンの登場。
舞台中央から登場して観客を驚かせると
客席で確保される。

狼少女を取り巻く村人たちの芝居にかぶさるように
後ろから狼少女を見ようとする観客たち。

「なんだ?観客のこの反応は
 見世物を見ているようなこの態度は・・・」

そしてスチュワートの家に連れてこられたジェーンは
部屋で唸り声を上げる。
足元をウロウロする狼に緊張感が走る観客たち。
そしてパトリー夫人が体をを洗おうとすると逃げ出すジェーン、
客席外の廊下でその芝居が行われていたと思うと
扉をあけて逃げ回るジェーン、客席に座り込む。

「なるほど劇場の全てが舞台というわけか・・・
 いつのまにか劇場も芝居の一部になってしまっているというわけだ。」

「といいますと?」

「はじめは男爵とスチュワートの議論を聞いているお茶会の客
 次はジェーンの部屋の壁だ。
 そして観客というよりは狼少女ジェーンの陰の観察者・・・
 これでは観客は途中で席を立つわけにいくまい。
 自分たちが芝居の一部なんだから・・・」

今回の舞台の変化のポイントを確実に解説する理事長。
お付きの人の相槌も素晴らしい。

芝居は進行、黒沼先生の合図で飛び回る虫の羽音の効果音が流れる。
目線やちょっとした肩の動きで虫がどこにいるかを表現するマヤ。
パントマイムマスターならではの演技である。
そして虫を追いかけ走り回るジェーン。
客席を巻き込んだ大捕物に観客も一体となる。

 

「なに!?黒沼龍三が芝居を変えた?」

場所は変わってアカデミー事務局であろうか。
芝居の感想を熱く語る理事長。

「観客を芝居の中に取り込んでしまったのだ。
 役者と観客が同じ場を共有し同じ空気を吸い同じ感動をわかちあう・・・
 いつのまにか観客は芝居の一部となり、芝居に参加しているような錯覚すら起こす。
 これほど芝居が身近に感じられたこともなく、
 これほど芝居に一体感を得たこともない。
 TVや映画など映像と違って舞台はまさに生き物。
 役者たちの生み出す空気を吸って観客は息づく。
 そんなものを実感させる芝居だった。」

ちょいちょい韻を踏んでいる理事長の解説がすごい。
手放しの大絶賛はもはや黒沼龍三のファンである。

「黒沼龍三は5日後にまた芝居を変えるそうじゃ・・・!」

忘れられた荒野は口コミで観客を増やしマスコミの注目も集めていた。

「黒沼龍三の芝居に人が集まっているですって?」

こちらは「イサドラ!」の円城寺まどかさん。

「芝居が変わってからの反応がものすごく
 噂を聞いて客は増える一方です・・・
 また5日ごとにどんな風に芝居がかわるのか観客は興味を持って待っているようです
 TV局も芝居が変わるたびに録画することにしたようです。
 アカデミー芸術祭の審査員たちや演劇協会員たちも
 この芝居に大変注目しているようです。」

「そんな・・・」

アカデミー芸術祭を争うライバルの意外な伸びに青ざめてしまう。

「なに!?黒沼龍三があの芝居を5日ごとに違う演出で見せるだと!?」

こちらは劇団オンディーヌ。
部下の報告を受ける小野寺先生。

「ええ新しい演出になってから二度目になるのですが
 これがもう大変な評判なのです。
 とても始めにやった芝居と同じものとは思えません。
 まるっきり別の芝居です。あれがこんな芝居になるなんて信じられない。」

「むむ・・・!で、一体どう変わったというのだ?」

「コメディです」

「コメディ!?あの芝居がコメディだと・・!?」

仰天してサングラスが透明になる

 

雨月会館は爆笑に包まれていた。
狼少女の動きに翻弄されドタバタのコメディが繰り広げられる。
ビクトール男爵とスチュワートは檻の中に追い込まれるわ、
檻を突き破るわ、ジェーンの芝居もコミカルである。

「なかなかやるじゃないかマヤたちも!」

コメディ回を見にきたのは
堀田団長と沢渡美奈、青木麗と水無月さやか。
春日泰子はまたしても行方不明。
一角獣のメンバーはいざ知らず、
つきかげの他のメンバーはきているのに薄情なやつである。

芝居が変わると同じ観客がなんども来場、
ある時は喜劇であり、ある時は悲劇。

雨に打たれ倒れるスチュワート
スチュワートのスカーフを握りしめ倒れるジェーン。
明らかに筋が変わっているような・・・

またジェーンと同じ表情、同じ向きで雄叫びをあげる
スチュワートやビクトール男爵
ジェーンの野生に憧れた人々が次第に狼化していくというおかしな舞台。
人間社会の愚かさを皮肉ってみせた。
明らかに筋が変わっているような・・・

またある時はスチュワートと狼少女ジェーンとの純粋な恋物語
婚約者エレンとの打算的な恋に疲れたスチュワートが
狼少女の素直で純粋な愛情に目覚めていく。

もはや雨月会館は連日観客が殺到、整理券を発行するまでに。
客席はキャパオーバーでブロックから転落するものも。

「これが忘れられた荒野・・・
 一本の芝居をこんなにも演じ分けて見せることができるとは・・・
 芝居が変わるたびに話題になるわけだわ
 それにこの客層・・・
 一般の観客はもとより演劇関係者が評判を聞いて集まっている・・・
 全日本演劇協会の会員たちは連日のように詰めかけているというし・・・
 忘れられた荒野・・・これほど話題になるなんて・・・」

客席には円城寺まどかさん、実質敗北を認めつつある。
この落胆セリフから察するに何回か見にきているのだろうか。

雨月会館には問い合わせや依頼が殺到。
もう一度見たい、あるいは見逃した、全部見たいなど
いずれも再演を希望するもの。

「もう一度5日ごとに芝居を繰り返すぞ!
 劇場のオーナーが引き続きここを貸してくれると言ってくれた!
 芸術祭終了まで続演だ!」

異例のロングラン決定に大喜びの黒沼先生と一同。

「紫のバラのひと・・・
 忘れられた荒野がロングランになったんです。
 あなたがきれいにしてくださったこの劇場で・・・!
 きっとまたきてくださるように・・・!」

綺麗してくださった客席は即撤去したのだが。

 

ちゅうわけで今回。
もうひとつの「忘れられた荒野」
芝居の可能性に挑戦である。

というか、もういくつあるねん。

基本パターン とは別に
基本+客席取り込みパターン
コメディパターン
悲劇パターン
皮肉パターン
恋物語パターン

描写されているだけで全6パターン。
これを5日ごとなので
休まずに30日、
さらに繰り返すという異例のロングランである。

明らかに筋やセリフ?も変わっているだろうところがあるのはツッコミどころ。
悲劇パターンでは二人ともぶっ倒れとるし。
ただ、これらの演出をした黒沼先生の手腕はすごい。
そら小野寺先生のサングラスも透明になってつぶらな瞳が浮かび上がる。
そしてこれだけの要素を内包した
「忘れられた荒野」の脚本もすごいということか。

ただ何と言ってもこの芝居の影のMVPは竹本さんだろう。
表のMVPは何と言っても狼少女のリアリティを押し出したマヤである。
しかしこれだけの芝居の変化に柔軟に対応し
セリフも多く芝居を牽引する役柄でもあり、
さらには舞台挨拶までやってのける。

ガラスの仮面の世界には、ちょいちょいこうした
いぶし銀の人が出てくる。

つづく。

 

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第33巻・紫の影(6)