【ネタバレ注意】ガラスの仮面第34巻その①【わしのこの手で紅天女を再演してみせる

      2021/12/18

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「演劇界幻の名作・注目の紅天女
 主役はどちらに!?」

新聞にデカデカと載るマヤと亜弓の写真。

  • 全日本演劇協会、制作を管理
  • 演出家、役者など検討中
  • 演劇界から出演申し込み相次ぐ!
  • 姫川亜弓、北島マヤ、二人の主役候補は他の出演者の配役発表を待って、来週中にも月影千草の直接指導を受けるため、紅天女のふるさとと言われる奈良県の梅の里へ!!

あれだけ秘密にしていたにも関わらず
紅天女のふるさとは、奈良県にあるらしいことを新聞に暴露されている。

そしてその新聞を狂気じみた表情で見つめるのは速水英介氏。

「月影千草が世間から姿を消して27年
 やっとここまできたか・・・長かったな・・」

「ええお義父さん・・・」

「紅天女を上演することは長い間のわしの夢だった・・・
 大都で・・・わしの築いたこの大都芸能で・・・!」

「いずれきっとそうなりますよお義父さん」

「全日本演劇協会が制作の管理をするというのは
 お前の差し金か?真澄。」

「さあどうでしょうか?
 目的を達することさえできれば
 手段はかまわぬと教育してくれたのは
 お義父さん、あなたでしたっけ・・・」

「とぼけるのが上手くなったな真澄。
 まあよいわ。お前のお手並み拝見させてもらうとしよう。」

笑いながら去って行く英介氏。

「紅天女か・・・
 気づいていないんですか?お義父さん
 あなたの人生は紅天女のために
 運命のレールを変えてしまったってことを・・・
 そして俺もまた・・・」

突然始まる速水真澄の自分語り。
ちなみに単行本34巻の半分以上は
この自分語りで占められている。

「そうあの日・・・
 オフクロと初めて速水の家を訪れた時から・・・
 あのときおれは6つだったっけ・・・」

速水真澄は旧名藤村真澄。
母の藤村文が住み込みの家政婦として
速水家で働くことになったのだ。

父は建築会社の現場主任だったが
施行中のビルの上層部から足を踏み外して転落死。
2つのときで顔も覚えていない・・・

「わしが速水英介だ
 子供をあまり母屋の方へ連れてこんようにな。」

挨拶に来た二人に見向きもしない英介氏。
母と真澄は離れで暮らすことになった。

速水英介は大きな会社をいくつも持っていた。
14歳の時に郷里の岡山から東京へ家出、
色々な仕事をやりながら成功、
若い頃株で大儲けし、小さな運送会社から
全国に会社を持つ大都運輸を築き上げた。
他にも色々な事業をやっており
その一つが演劇や映画を作り
映画館や劇場をたくさん持っている大都芸能であった。

 

「奥の部屋は大事なものがあるので
 誰も立ち入らんようにしてくれ。
 わしがいうまでは掃除せんでいいからな。」

家政婦である真澄の母にすら
立ち入らんように言い聞かせていた奥の部屋があった。

ある日、車のおもちゃで遊んでいた真澄。
車を走らせるところころと転がり
偶然にも例の奥の部屋の前へ。

「開いている・・・」

何の気なしに扉を開けた真澄。
そこには特大の額に飾られた女性の写真、
そして部屋一面に飾られた額や掛け軸の写真や調度品。

「なんだろこの部屋・・・
 綺麗な着物・・・」

かけてあった着物を手にする。

「ここで何をしている!」

「あっ旦那様!」

真澄が着物を握っているのを見た英介氏。
途端に目つきが変わると真澄の顔面に平手打ち。

「汚い手でさわるな!」

ふっとばされ壁に激突する真澄。

「どうして入った!!」

「ごめんなさいぼく・・・
 ここの扉が開いていたのでつい・・・
 中をのぞいて見たらその綺麗な女の人の絵が見えてそれで・・・」

「生意気な小僧だ。お前まで紅天女に魅せられたか。」

「紅天女?」

「そうだこの肖像画の女は千年たつ梅の木の精、紅天女だ・・・
 観る者の心をあやしくときめかす。」

突如として紅天女の説明をしてくれる英介氏。

  • 紅天女・・・長い間演劇界の名作として知られていた舞台だ・・・
  • これはその舞台写真だ
  • 演じているのは月影千草という女優だ
  • 見事な芝居だった・・・あんな名演技はもう二度と見られない・・・
  • 幕が降りた後、観客は大抵感動のあまり席を立てなかったものだ
  • 数年前、千草は舞台の天井から落ちて来た照明で顔を潰され女優としては再起不能になってしまった
  • 以来行方不明だが、もうあれほどの大女優が出るかどうか・・・

「いつかきっと彼女を捜しだし
 わしのこの手で紅天女を再演してみせる。
 かならず・・・」

英介氏の狂気じみた表情に驚く真澄。

「これは紅天女の着ていた打ち掛けだ
 これらは舞台で使われていた小道具・・・
 これらを眺めていると紅天女のひそやかな息遣い・・・
 梅の香の匂うような演技のひとつひとつが思いだされる・・・
 ここにいるとあの時の舞台がまた蘇ってくるような気がする・・・」

恍惚とした表情から我に返ると睨みつける。

「出て行け!もう二度と入るんじゃない!」

速水真澄を突き飛ばすと扉を閉めたのだった。

 

「そう・・・あれが紅天女を知った最初だった・・・」

バルコニーから庭を見つめる現在の速水真澄。
植木の手入れに来た庭師たちが挨拶する。

「まあなあに?この汚い泥は・・?」

家政婦さんたちが話している。

「ああこれは堆肥だ。植木の養分になるものだ。
 ふつうはわらや落ち葉に水をかけて腐らせるんだが
 池の底の泥なんて最高の堆肥になるんだ。」

「そうなんですよ、池の泥なんて栄養たっぷりで
 植木屋にとっちゃ宝物みたいなものですよ。」

「詳しいんですね真澄様」

「子供の頃出入りの植木屋と親しくしていてね。教えてもらったんだ。」

再び思い出に入る速水真澄。
少年時代の速水真澄が植木屋の仕事を手伝っている。

「そうだ・・・あの頃は
 速水家へ出入りする職人たちからよく可愛がられたっけ・・・」

当時の速水氏は40近くになっても
何故か数多くの縁談に見向きもせず独身を通していた。
誰とも結婚する気はないように見えた。

「将来のためを考えてわしたちの倅のうち
 誰か一人を養子にせんかね?英介くん」

「やはり後継者は血の繋がった人間の方が何かと都合がいいですよ兄さん」

「私たちは本当にあなたのためを思って言っているのよ英介さん。」

それぞれの子供達を連れてやってくるのは
速水氏の腹違いの兄や姉弟。
14歳の時に郷里の岡山を飛びたしたのは
彼が父の妾の子供であり
義理の母や兄弟たちと争いが絶えなかったかららしい。

「僕は後継者を血で選ぶつもりはありません」

「だが血で固めた組織というものが一番安心できるものだぞ。」

「そういうものに頼るのが一番会社のためにならないんですよ兄さん。」

「なんだと!それじゃわし達が会社のためにならないというのか?」

「まあまあ、兄さん達・・・
 英介兄さんそりゃあ昔はいろいろありましたよ。
 子供でしたからね。
 でももう旧家だなんていっちゃいられない。
 戦争からこっち、速水家もすっかり没落してしまいしたからね」

岡山の旧家の妾腹の子として生まれた英介氏が成功したと知ると
ソリの合わなかった異母兄弟たちが縁を取り戻し
地元でも協力をしたにも関わらず、
閑職や地方の仕事をあてがわれていることに不満らしい。

「なるほどよくわかりましたよ。
 血縁関係というものが仕事の上でどんな悪影響をもたらすか。
 あなた方が会社でどんな業績を上げたか説明してもらいたいものだな。
 今のままで気に入らなければやめてもらってもいいんですよ、兄さん方。」

たたき上げの実力主義の英介氏らしい発言である。
そんな彼に子供達を後継者にするべく取り入っている。

「この子達だって将来はきっと大都の役に立ちますよ。
 後継者として教育してやってくださいよ!」

「お前達も本当にそう思っているのか?」

「うん!僕おじさんのためならなんでもするよ。」

他の子供達も賛成する。

「そうか
 では鍛えてやろう。」

そういって連れてきたのは速水邸の広大な庭にある
これまた広大な池。

「庭の池がだいぶ汚れているんでな。
 お前達の掃除してもらおう。
 泥さらいをやってくれ」

「ええー!」

「泥の中に鯉がいる。
 傷つけたら承知せんぞ。
 兄さん達、あの子達が無事泥さらいをやり遂げたら
 さっきの話は考えましょう。」

「無茶だ、こんな小さな子供達にこの池の泥さらいなんて
 いったい何日かかることか・・・・」

「まあわしの血を分け持つ子供達が
 どれだけのことをやるかじっくり拝見させてもらいましょう。」

庭の椅子に座り様子を見る。
しかし泣き叫ぶ女の子、
喧嘩を始める男の子達。

「1時間20分か・・・まあ続いた方だな
 ま、こんな調子ではわしの後継者など無理な話だな。」

「兄さんそりゃこんな小さな子供なら誰だって同じですよ。」

ふと英介氏が目をやると、植木屋の手伝いをしている幼き日の真澄。

「おい小僧ちょっとこい!
 この池を泥さらいして綺麗にしてくれんか?」

「えっ?僕に?」

「そうだ」

すこし考え込む

「ここきれいになればいいんですよね?」

「そうだ」

「今日中にできるかなあ?ちょっとまってて」

走っていくと仕事をしている植木屋に何やら話している。
そして満面の笑みで近づいてきた親方風。

「旦那!池の泥をいただけますそうで
 これから早速取りに参ります。」

驚く一同を尻目に、
バキュームカー数台と大勢の職人達が庭にやってくる。
そして日が暮れる前には池がすっかり干上がった。

「池の泥はすっかり綺麗にしましたから
 あとは水を張るだけです。
 三日もすれば元どおりになるでしょう。
 どうもお邪魔しました。」

ご機嫌でさっていく職人達。

「小僧、どうして植木屋に頼んだ?」

「この池を早くきれいにするにはどうすればいいのかなって思って
 僕一人じゃ無理だし・・・
 植木屋のおじさんが池の泥がいい堆肥だって言ってたから
 ちょうどいいと思って・・・
 池も綺麗になるし植木屋のおじさんも喜ぶから・・・!」

去っていく真澄と、面目のない親戚の子供達。

「ふうむ・・・
 自分の身を汚さずして双方に利益を与え
 目的を達する・・・か。」

 

ちゅうわけで今回。
速水真澄が速水の家にやってきた経緯と
紅天女との出会い、
そして若き日の義父・速水英介。

この一連を読むと速水真澄の聡明さがうかがわれる。
年上の大人達に馴染み可愛がられる才能、
そしておっそろしい英介のおっさんにも、
怖がりながらもものを言う度胸、
池のエピソードも速水英介に目をつけられたきっかけでもある。

しかし速水英介氏、マヤと会った時の好々爺ぽさはなく
かなりイかれたやばいおっさんである。

その境遇や経歴から何者にも頼らず
実力と結果だけで一代で大都グループを築き上げただけに
その人生哲学もかなり気合の入ったものである。

この時速水英介40歳くらい、
速水真澄6歳。
数年前に月影千草が姿を消し、
そして27年後が現在とあるから
作品現在の速水英介は70前
速水真澄は30過ぎといったところか。

しかし回想の速水英介と管理人がほぼ同年代というのがなんともいたたまれない。
ビジュアルの貫禄、経歴、財力、比較すると恐ろしくなる。

そして月影千草は行方不明になっていたとのことだが
横浜の豪邸に暮らし、街中をうろうろしていたようで
本当に行方不明だったのか。ちゃんと探したのか気になる。

つづく。

 - あらすじ・ネタバレ注意, 第34巻・紅天女(1)