ガラスの仮面のおっさん

アラフォーのおっさんがガラスの仮面を読んで聞かせる

「ふたりの王女」ガラスの仮面・劇中作品データ

   

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出演:
オリゲルド 姫川亜弓
アルディス 北島マヤ
ラストニア国王 津田広志
王妃カタジーナ 東ひとみ
王妃ラグネイド 須坂田江子
皇太后ハルドラ 月影千草
その他多数

演出:風魔鬼平
脚本:瀬戸哲也
舞台美術:大友静香
制作主任:兼平良介

劇場:日帝劇場

主な観客:
速水真澄
桜小路優
水城冴子
姫川貢
姫川歌子
小野寺一
劇団つきかげと一角獣のメンバー
その他劇評家多数

マヤにとっての演劇界復帰作であり、
姫川亜弓と同じ舞台上での直接対決、
師匠・月影千草との共演
など、見どころ盛りだくさんのこの舞台。
「第10章・冬の星座」をまるまる構成するこのお芝居は、
オーディションから含めると
単行本22巻から27巻まで掲載される超大作である。

あらすじ

王位継承権を巡って対立する二人の王女の対照的な生き方を描く物語

本編において、印象的なシーンやセリフ以外は
舞台の細かいストーリーやセリフははしょられ、
ナレーション進行することが多いのだが
この「ふたりの王女」においては、ほぼノーカット。
相当の力の入れようである。

ちなみに「二人の王女」ではなく正しくは「ふたりの王女」である。
ただ入力の関係で当ブログでは「二人の王女」と連発している可能性が大です。

速水真澄の差し金

そもそもマヤがこの「ふたりの王女」に出演するきっかけとなったのは速水真澄の差し金である。
「真夏の夜の夢」にて好評を博し、
アテネ座への出演および大都芸能のバックアップを勝ち取った
劇団つきかげと一角獣のメンバーたち。
しかしその企画からマヤは外されていた。
怒りの抗議をしに大都芸能を訪れたマヤに対し、
あえて憎まれ役を買って出ることで闘争心を掻き立て、
そして日帝劇場で姫川亜弓と月影先生が共演する情報をもたらし、
相手役降板で大騒ぎとなっている日帝劇場へと向かわせたのだった。
見事なまでの策略は、
敏腕秘書の水城さんには全てお見通しであった。

オーディション圧勝

てなわけで日帝劇場についたマヤ、
姫川亜弓の相手役オーディションが行われることを知ると、
劇場に居座り、担当者にオーディション参加を直談判。

マヤが数々の武勇伝を持つ「紅天女候補」だということを知る、
制作主任の兼平さんの興味本位とも言える英断により、
オーディションへの参加を認められたのであった。

オーディションにマヤが参加するに及び、おそれをなす競争相手たち。
オーディションは一次から三次までの脱落形式。

一次審査の課題①は「毒」のセリフ。
他の連中が簡単とばかりに、やりたい放題やる中、
「これは難しいわ」と自らの芝居アプローチを披露してびびらせ、
審査員も競争相手も恐怖のどん底へと叩き落とす。

課題②は音楽
ザ・ヴィーナス「キッスは目にして」のリズムに合わせ、
他の参加者は、「ジャズダンス」「モダンダンス」「ディスコダンス」など
違いのよくわからんダンスを披露する中、
マヤは事務所に行って靴墨を借り、顔や衣装を汚し、
ペンキを塗るパントマイムを音楽に合わせるという差別化を意図せず測る。
爆笑に次ぐ爆笑をかっさらう。
一次審査終了時点で、審査員からその圧倒的な実力差を評価されるほどの圧勝。

数日後集められた二次審査。
マヤ含む5名の参加者に与えられたお題は
レストランのセットでマスターや音楽に合わせた「感動を生む」のテーマ。
他の演者が苦心して熱演、あるいは盛大にスベり倒す、はたまた何もできない中、
7パターンもの芝居を立て続けに披露し、まさに感動を生みまくる。

協議の結果、第三次審査は行われることなく圧勝、
マヤはまたしても伝説を創り、他の参加者たちはその肥やしとなった。

速水真澄の差し金がきっかけとは言え、
マヤは見事チャンスを掴み、演劇界への復帰のスタートに立ったのである。

まさかの配役

姫川亜弓の相手役オーディションを勝ち抜いたマヤ。
用意された「ふたりの王女」台本を読みふける。
アルディスとオリゲルド、二人の対照的な王女を見るに、
美しく華麗な光の王女アルディス=姫川亜弓、と想定、
自身はオリゲルドをやる気満々。
姫川亜弓もアルディスをやる気満々。
スタッフも、共演者もみな、
「アルディス=姫川亜弓」の規定路線。

しかしそんな定石を覆す人がいた。
往年の大女優にして伝説の紅天女、月影千草である。

大ベテランとは言え、一出演者ながら
制作会議に乱入、「おもしろくなるから」との理由で
配役を覆すことに成功。
誰もが驚き戸惑うまさかの配役であった。

しかしマヤの持つ資質、亜弓の持つ資質が二人それぞれの役にマッチ、
見事なまでの二人の王女が誕生したのは結果論では無い。

しかしこの「ふたりの王女」
本編を見るに明らかにオリゲルド中心のストーリーである。
マヤが参加したのは「姫川亜弓相手役のオーディション」
舞台の企画時点から姫川亜弓主役は当確。
そして姫川亜弓=アルディスというのが規定路線なら
オリゲルド中心のストーリーを用意するだろうか。
それとも往年の大女優は
脚本にまで口出しをして、ストーリーを書き換えさせたのであろうか。

二人の役へのアプローチ

自らがイメージしていた役とは正反対の役をあてがわれた二人。
それぞれの役へのアプローチがやばい。

まず、生活を取り替えた。
牢獄のオリゲルドの心を会得するために、
マヤに頼み地下劇場での起居をする姫川亜弓。
「牢獄≒地下劇場」などと月影メンバーが聞いたら激怒しそうである。
マヤは引き換えに、姫川邸でのセレブライフを享受。
お姫様扱いされたことがないマヤにとって
リアルお姫様の亜弓の暮らしは格好の環境。
最後の方には音楽を聴き、花を愛でる暮らしが板につく。

さらには紫のバラのひとの紹介で
かつてオペラでアルディスを演じた北白川藤子さんと対面。
アルディスを演じるための心の有り様を伝授された。

一方の姫川亜弓、地下劇場での起居を続ける。
健康、衛生、体力と引き換えに、オリゲルドの心を会得、
共演者たちを怯えさせる。
さらには謎の痣メイクを施し、夜の街を徘徊、
挙げ句の果てには不良少女と凶器を手に乱闘する始末。
芝居のためには反社会的行為も辞さない、
間違った方向の役者魂を見せつけたのであった。

紅天女、やりたい放題。

往年の大女優にして伝説の紅天女、月影千草。
キャスティングに口を出しただけではなく、
稽古場も乱し続ける。

不甲斐ない芝居を見せるマヤと亜弓を見て
「相手がこんな役者たちじゃ稽古する気が起きない」
とボイコット。
食い下がる亜弓とマヤを、
演出家の風魔鬼平先生を承諾させ個別レッスンを課した挙句、
納得いくまで全体稽古には参加させないという横暴。

「あなたたちの芝居には気温がない」という無茶苦茶な理由で
精肉工場の冷蔵庫に監禁。
二人はおしくらまんじゅうで乗り切る。
それもどやねん。

ほんで勝手に熟練度テストをやって合格させる。
結果二人の芝居は段違いに良くなったのだが、
ここは劇団つきかげではない。
演出家やスタッフの存在を無視してやりたい放題やる大女優健在。

しかも舞台本番では圧倒的な存在感で舞台の空気を支配。
往年の大女優の名にふさわしい演技で好評を博した。

月影先生にとって、やりたい放題稽古を乱して、
好き放題芝居をして、実に楽しいひと時であったのだろう。

いろいろヤバい日帝劇場

オーディションから本番まで通して見ると
日帝劇場、そして今回の芝居に携わる人がいろいろとヤバい。

まず、演出家の風魔鬼平先生。
そのイカれた名前に負けない鬼の演出家と思いきや、
オーディションではマヤの演技を単純に楽しみ、
稽古場では月影千草のイエスマンに成り下がり、
本番になるまでマヤの芝居の凄さ、
亜弓の芝居の凄さに気づかない。
この芝居の主役がどちらなのかも理解していない。

共演者やスタッフも同様に、本番中まで
「この芝居はオリゲルド主役だ」と気づかない実力と目線。
お前ら稽古の時何しとってん。

稽古で本気を出さないマヤや亜弓もずるい。

制作主任の兼平さんは、オーディション終了後は行方不明。

そしてオーディション会場に潜入する聖さん。
劇場のセキュリティが甘すぎる。

オーディションに参加したマヤ以外の俳優の実力がひどい。

などなど、一流の劇場という割にはいささか疑問が多いのである。

ふたりの王女の勝負の行方、そしてその後。

「ふたりの王女」はアルディスとオリゲルドの対決であり、
北島マヤと姫川亜弓の直接対決である。

結果から言えば、評価をより得たのは姫川亜弓。
これまでにない役どころを見事に演じ、
単なる悪役ではない悲哀を感じさせる演技で観客を魅了。
そしてマヤも好評を博し、舞台やテレビの出演オファーが殺到。
演劇界復帰、そして紅天女へ向けて
出演作品を選べる立場にカムバックしたのだった。

マヤは亜弓のことを気にしつつもその人気と実力は素直に認め、
自身の役に向き合い、自身の芝居を舞台を楽しむことができた。

意外なことに終始相手を意識していたのは亜弓。
稽古も本番中も、あの子には負けたくない、
観客はどちらを見ているのかと執心。

しかし強烈な特訓とマヤの芝居にも力を借りて
初めて自身が姫川亜弓であることを忘れ
自身がオリゲルドになりきれた「芝居の麻薬」の快感を味わう。
千秋楽後、その事実をマヤに告げると

「亜弓さんがなぜそんなことを言うのかわからない。
私はいつもそうだから、そう言うものだと思ったけど。」

とばかりにマヤに呆然とされる。
マヤの天然発言に亜弓は再びマヤの才能を敵視し、
修羅の道へと戻されたのであった。

まとめ

というわけで演劇界復帰を果たしたマヤと
芝居の楽しさを初めて知った亜弓。
マヤは紅天女候補へカムバックするため
次回作を選ぶのです。

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