ガラスの仮面のおっさん

アラフォーのおっさんがガラスの仮面を読んで聞かせる

「たけくらべ・劇団つきかげ」ガラスの仮面・劇中作品データ

      2017/02/03

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演劇コンクール全国大会・東京地区予選
原作・樋口一葉
出演:
美登利・北島マヤ
信如・森川アキラ
その他 劇団つきかげのメンバー
演出:田代先生・月影千草
劇場:公会堂
主な観客:
審査員・評論家多数・速水真澄・姫川亜弓・その他観客多数

演劇コンクール全国大会東京地区予選。
前回のつきかげ第一回公演では上々の出来だったものの、大都芸能の速水真澄の陰謀により、マスコミに酷評されなおかつゴシップも書きたてられ、劇団つきかげは存亡の危機を迎える。

存続の条件は全日本演劇コンクールでの三位入賞だ。
しかし同じ東京地区には優勝候補・劇団オンディーヌがおり、三位入賞はおろか、全国大会出場も難しい。
そのような逆境の中、月影先生はマヤを主役に選んだのだった。

蠢めく大都芸能の魔の手

マスコミを利用しつきかげを解散の一歩手前まで追い込んだ大都芸能の速水真澄と小野寺理事。
しかし今回もその手を緩めることはなかった。

つきかげが「たけくらべ」を上演することを聞き及び、オンディーヌの演目も「たけくらべ」に決定。
上演日を同じ日に設定し、しかもオンディーヌの直後に設定するという手の込みよう。
亜弓が美登利を演じた直後にマヤが美登利を演じるというその落差を狙ったものだった。

しかも各団体に平等に与えられている、本番劇場での稽古時間を勝手に変更し、つきかげが舞台稽古をできないように仕向ける。
さすがにこれには、仕事の鬼速水真澄も引いている様子。
そして真澄がつきかげの肩を持つような発言をしたことをたしなめると

「舞台は神聖なもの」

という曖昧な言葉で濁す。
どうもこの二人の関係性はよくわからない。

大都芸能の躍進を図る真澄と、演劇界での栄達を目指す小野寺の利害が一致し、連載当初からコンビを組んで劇団つきかげの妨害をするが、当初ノリノリだった真澄は若干控えめになり、このころから小野寺の思惑が強くなっていく。
速水真澄のマヤへの興味が強くなるのと反比例して、その仕事の鬼っぷりはなりを潜めていく。

そして極め付けは紫のバラがつきかげの楽屋に置かれていたこと。
置いてあった手紙には「あなたを見ています」との直筆。
かなり強度のストーカーの手紙である。

「来ているんだわ!紫のバラの人!」

喜ぶ前にその状況を疑え。
楽屋に部外者が勝手に入ったというその現実を。

マヤの主役抜擢と今回のイベント

主役の美登利に抜擢されたマヤ。
このキャスティングに反対するものは誰もなく、若草物語ではマヤを酷評しベス役から降ろそうとした演出の田代先生も笑顔でマヤに接する。
マヤの実力を認めたのか、それとも長いものには巻かれるただのイエスマンなのか。

そしてマヤがその超人的な演技の才能を発露させるには、何らかのイベントが必要であることが定番となっている。
今回は盛りだくさんだ。

まずクライマックスで美登利が激昂するシーン。
なかなか上手くいかないマヤに容赦なく鉄拳を見舞う月影千草。
効果音並びにコマの描写からは少なくとも13発はしばかれている。
マヤの顔は腫れ上がり、口からは流血。
それでも月影先生は攻撃の手を緩めることなく、髪の毛を引き摺り回し、マヤを突き飛ばす。
結果的にマヤの怒りの演技は開眼。

「いいんですよそれで。なかなかよく演れていました。
 その呼吸と気迫を忘れずにね。」

それでええんかい。なおこの後、マヤは先生に感謝する模様。

さらには舞台稽古で亜弓の演じる美登利を見たマヤはその幻影に恐れをなし、演技を放棄してしまう。
見かねた月影先生はマヤを極寒の物置小屋に監禁するという暴挙に。

当初は投げやりになっていたマヤだが、退屈さの中から芝居への情熱を取り戻す。
マヤは稽古の時とは異なる下町っぽい元気な美登利をつかみ始めた。
そしてそれに拍車をかけるようにドア越しにアクトバトルを挑む月影先生。

「私もちょうど演劇の稽古などやりたくなっただけです。
 気の済むまでやりあおうじゃありませんか。」

マヤのオリジナリティ溢れる美登利を引き出し、亜弓の完璧な美登利に勝つために、
たけくらべを二人で5日間寝ずに雪の中通し稽古をしたのだった。

結果としてマヤの新しい美登利は完成し、本番では亜弓の美登利と好対照をなし、観客や審査員をうならせたのだった。

気になるのは月影先生の言葉。
亜弓の完璧な美登利を

「天才の才能の限界。けっしてそれ以外ではありえない」

と評しているところ。
月影先生も亜弓がやがて突き当るであろう壁を予見していたのだろうか。

果たして演出は誰なのか、そして月影先生の命は。

今回のたけくらべ。
演出は田代先生のようだが、前述のように彼は月影先生の傀儡に成り下がっている。
月影先生の劇団なのだから当然と言えば当然だが、キャスティングなどにおいても月影先生の意向が強く反映され、稽古場では月影先生の鬼指導ばかりが目立つ。
これはもはや演出・月影千草と言っても過言ではないであろう。

しかしその月影先生、たけくらべの稽古前には心労で倒れ、さらに寝ずの猛稽古でドクターストップを制止してまでマヤの役作りに立ち会う。
それも読み合せとかのレベルではなく、本気の演技(顔芸)を惜しげもなく披露するほどの名演技だ。
そして最後には

「ライト美登利を包むように次第に暗くなる・・・幕・・・」

とマヤの演技指導だけではなく、照明プランまで指示し、事切れた。
この劇団の演出は誰なのか、そして月影先生の病状が気になって仕方がない。

ますます影が薄くなる他メンバーたち。

今回のたけくらべは主役の美登利と相手役の信如がメインキャスト。
オンディーヌの信如役はあの桜小路優が務めるが、つきかげの信如役は森川アキラ。
誰やお前は。

そして今回も劇団つきかげの中心メンバーである寄宿生たちは全くもって影が薄い。
青木麗ですら何役にキャスティングされたのかは定かではなく、その他のメンバーは劇団解散を恐れているだけ。
水無月さやかが物置に監禁されたマヤに食事を差し入れ、そのついでにマヤばかり月影先生に見込まれていることを遠まわしに示唆したのみ。
劇団つきかげは早くも2公演目にして格差が広がってしまった。
これが劇団の解散を早めることになるのである。

まとめ

以上、今回は劇団つきかげの「たけくらべ」について所見を述べました。
マヤの超人的な演技力を発露させた月影先生の鬼指導。
皮肉にも劇団解散の端緒を開き、大都芸能の魔の手を近寄らせることとなったのであった。

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