「奇跡の人」ガラスの仮面・劇中作品データ

   

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出演:
アニー・サリバン 姫川歌子
ヘレン・ケラー 姫川亜弓/北島マヤ(ダブルキャスト)
ヘレンの父 神野克彦
ヘレンの母ケート 松山道江

演出:小野寺一
劇場:大都新タウンビル9F 大都プラザ劇場

秋に渋谷にオープンする大都新タウンビルの劇場のオープニングとして
大都芸能の威信をかけた「奇跡の人」
有名無名問わず、極秘裏にヘレン候補を探す大都芸能。
地下劇場で活躍中のマヤもその対象となっていた。

「石の微笑」の千秋楽において、人形の仮面を被れず月影先生より謹慎処分を言い渡されたマヤ。
謹慎中にもかかわらず、「夢宴桜」に出演し、姫川亜弓と初の競演、
しかし姫川亜弓の実力に恐れをなし、
しかも月影先生に破門を言い渡されたのだった。

破門を取り消し謹慎を解くには、
「奇跡の人のヘレン役オーディションに参加し、姫川亜弓や他の候補者と戦って、ヘレン役を勝ち獲る」
という条件を提示され、マヤはヘレン役に挑戦するのだった。

今作品の描写は、単行本でも9巻の中盤から12巻までと、
かなりのページ数を費やしており、
マヤの芝居への情熱の浮き沈みや、マヤを取り巻く人々の動きも多く描写されている。

あらすじ

「WATER!」

正直よくわからない。
スクールウォーズ風に言うと

「この物語はある少女の人生に戦いを挑んだ、一人の熱血家庭教師の記録である。
 三重苦の少女が闇の中から物には名前があるということを知りえた奇跡を通じ、
 その原動力となった信頼と愛を、余すところ無く舞台化したものである。」

といったところか。
内容は、姫川母娘バージョンは本格格闘劇、
北島マヤバージョンに至っては、あらすじなしの、オールアドリブ劇である。

マヤと亜弓、それぞれのアプローチ

マヤは「紫のバラのひと」の誘いの元、長野の避暑地へヘレン役の稽古に行く。
その稽古というか修行がすごい。
三重苦の気持ちを知る為、目をつぶって屋内や森林を歩き回り、
目を閉じて食事をし、別荘管理の山下さん夫婦に

「おかしな子」

と認定される。

さらには、耳に粘土を詰め、目を包帯で多い、
三重苦を地で行く、昼も夜もわからない生活を過ごす。
家は荒れに荒れまくり、倒れる家具建て具、
散乱した食材、割れたガラス、破れたカーテン、
山下さん夫婦も強盗かと思い込むほどの惨状。
紫の人の厚意とはいえ、人の家を破壊しまくるという行為に出る。

さすがのマヤも芝居などどうでもよくなりかけるが、
様子を見に来た紫のバラの人に触れ、
芝居への情熱を新たにするのであった。

一方の姫川亜弓は、アニーサリバン役が母親の姫川歌子であることから七光りと思われることを嫌い、
自宅を出て父親の中野のマンションに引っ越すという七光りを使う。

さらには神奈川の聾唖者施設で生活し、
マスコミの暴行も避けられないほどに三重苦をマスター。

さらには、「いきなりWATER!」の気持ちを使う為に、
梅乃ばあやもドン引きするほどシャワーの水を浴びまくり、
最終的には漏電した洗濯機に感電し、その気持ちを習得。

観客に「感電したかのような表現だった」と言わしめ、
危うく無駄死するところを、芝居の糧に変えたのだった。

咬ませ犬たち。

奇跡の人オーディションにはマヤ・亜弓含む5名がリストアップ。
選考に選考を重ねた咬ませ犬である。

まずは「鬼婆芸人」の金谷英美
マヤも通っている一ツ星学園の演劇部のエースである。
この演劇部は高校演劇の全国大会で毎年の様に優勝し、
有名な演出家や役者が指導にあたっている、
厳しい演技テストをパスして入部できる名門。
なぜか出し物は「鬼婆」
鬼婆の芝居で彗星のように現れた金谷であるが、
役者の傾向としては技巧派。

鬼婆の時は髪を振り乱し、目をギョロつかせる。
ヘレン役には、文献や映像を何度も見て、
その動きや癖、人物の特徴を技巧的に捉えようとする。
悪く言えば、見た目から入るひと。
オーディションではダイナミックな舞台映えする演技で審査員をうならせるものの、
最終審査で火災報知器に見事に反応し、破れていった。

他には

劇団「風」の白鳥令奈。
なぜかご両親と、演技指導の先生と一緒に参加。

劇団「天馬」の早川あきこ。
テレビのホームドラマでも活躍中とのことでマネージャーと一緒に参加。

この二人に関しては、途中オーディションに嫌気がさしている、
芝居をやらされていると見られる節もあり、
特に言うことはない。

大都芸能の威信をかけた大作。しかし・・・

「大都芸能が渋谷にオープンする新ビルに落成する劇場のこけら落とし」

といういわば大都芸能の威信をかけたプロジェクトなのだが、
なんとも腑に落ちない。

まず、大都芸能新ビル。
1階〜6階 ショッピング街
7階・8階 食堂街
9階 大都プラザ劇場

意外と小さい。
それとも10階以上の高層階には他に何かあるのだろうか。

そしてその大型プロジェクトのオープンにもかかわらず、
大都芸能若社長は、出演女優と劇場ロビーでたい焼きを食べ、
翌日にはもう一人の出演女優が劇場ロビーでたい焼きを食べる。

一年近く費やしてリストアップしたヘレン候補は、
マヤ、亜弓、鬼婆の3人はええとして、
雑魚2人を選考してしまうという体たらく。

今をときめく大女優は、
稽古場でも本番でもアザや傷は当たり前。
流血も辞さぬ本格バトルを演じ、
そして一日置きにはあらすじ一切無視のアドリブバトルを演じ、
舞台を一部の出演者の私物と化してしまう。

楽屋や舞台袖には出演者や関係者以外の、
出演者の知り合い(つきかげメンバーや桜小路優)や、
もはや無関係(三流芸能プロのスカウト)も入れるというセキュリティの甘さ。

この「奇跡の人」を通じての一番の感想は
「大丈夫か?大都芸能?」である。

エスカレートする速水真澄

そして大丈夫なのか怪しい大都芸能の実質トップ。
この人も相当大丈夫なのか怪しい。

「紫のバラのひと」としてマヤに別荘を貸し出すまではええとして。
なぜか気になって見に行き、抱きつかれ

「チビちゃ・・・」

と言葉を発してしまう、セルフコントロールの弱さ。

そんな自分に嫌気がさし、急に予定を取りやめ東京に戻り、
部下を当惑させる仕事の鬼とは言えないスケジューリング。

オープン当日にはロビーでたい焼きを食し、
翌日には舞台が大変なアドリブバトルになっているにもかかわらず客席で大爆笑。

三流芸能プロにスカウトされかけたマヤを守るため、
業界圧力をちらつかせる。

ほんまに、読めば読むほど、速水真澄という人は、
仕事ができるのか疑問が増えていく一方である。

姫川歌子に流れる、月影イズム

「奇跡の人」の主演はアニーサリバン役の姫川歌子。
言わずと知れた大女優にして、姫川亜弓の母である。

と同時にかつては月影千草の内弟子であり、
マヤにとっては姉弟子にあたる存在。
その言動や芝居に対するスタンスには往々にして「月影イズム」を感じる。

自宅を出て行く一人娘を止めもせず、
オーディションでは二人を選考するというずるさも見せ、
稽古場では実の娘と形式上の挨拶以外は会話を交わさず、
怪我や流血を辞さぬ芝居は、かつて鉄拳制裁を受けたであろうことを予想させる。

マヤとの芝居を「闘い」と表現し、
マヤのヘレンと闘い舞台を成功させる為には舞台を私物化することも辞さず、
目的の為には手段を選ばないというシビアさも持ち合わせている。
そしてあらすじ無視の魂のぶつかり合いを体現していく中で、
芝居を超えた、本物をマヤとの間で共感し、
カーテンコールでマヤにキスをするというやってはいけないことをしてします。

そのセレブ感と美貌にも関わらず、
そのハートはとても熱い、月影軍団なのである。

小野寺先生、初演出?

今回の演出家は「政治的演出家」として有名な劇団オンディーヌの小野寺先生。
数々の黒い策謀で地位を築き上げたという稀な演出家である。

しかし今回は出演者に動きや気持ちを指示している描写がある。
そしてマヤには演出をしないという、狡猾さも見せる。

さらに本番中、アドリブバトルが本格化し、

「この舞台を私に任せてください!」

と姫川歌子が申し出た際には快諾し、
他の出演者に指示を出すという演出家らしいこともしている。

やればできるんですね。

恐るべし月影千草

そしてやはり恐ろしいのは月影先生。
マヤの謹慎破りに怒りをあらわにし、

「破門宣言」

強引に「私女優になります!」と言わせ、入門させたにも関わらず、
一方的な破門宣言。
退団や引退ではなく、破門。
劇団つきかげは、宗教団体のようである。

奇跡の人初日には、劇場のお姉さんが注意するにも関わらず、
会場一番後ろの壁際で立って観劇。

「ここが一番芝居が見える。
 席のチケットはとってある。」

金を払えばなんでも許されるという典型的なモンスター客。
この前まで病床にいた癖に。

しかしこの芝居への飽くなき情熱と、
「芝居 = 闘い」の精神が後進を育て、
奇跡の人を生み出したのである。

結末

何と言っても一番可哀想なのは姫川亜弓。

「完璧」「史上最高」と言われながらも、人気はマヤには及ばず。
実の母にも実質的にマヤの方が優れていることを言い渡される。
そしてアカデミー芸術祭助演女優賞はマヤの手に。
しかしその授賞式席上でマヤの選考理由を聞き及び、
自分の方が「完璧」であったことを知り、やや満足する。
そしてどさくさに紛れて乱入した月影先生により、
「紅天女候補」に指名されるのであった。

そしてマヤにとっても出世作となった。
助演女優賞を手にしたことにより、スターダムを確保。
そして今までなんとなく「紅天女候補の候補」くらいに言われていたのが、
明確に「紅天女候補」と明言されたのであった。

すなわち、劇団つきかげの存在意義の消滅でもある。

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